『鉄コン筋クリート』

親を知らずに育ったクロとシロ。クロがシロを守ってるようで、シロもクロを守っていたという話。映像がごちゃごちゃしてておもしろい。昔の街と近未来のイメージを合わせたごちゃごちゃ。蒼井優は声優でも天才。
――シロね、夜になるとね、悲しくなるのね。
なぜかこの台詞が頭に残った。

瀬尾まいこ『卵の緒』

卵の緒 (新潮文庫)

卵の緒 (新潮文庫)

予想以上によかった。「卵の緒」も「7's blood」も。特に後者は電車の中で泣いた。ケーキのシーンがもう…。腹違いの姉弟が一緒に暮らし始める話。最後が悲しすぎるけど、血縁っていうどうしようもないつながりの残酷さと奥深さが一緒になってた。七生の「子どもだからだよ」という台詞は、子どものくせにいろんなことを知りすぎてしまっている七生にぞくっとするけど、切ない。瀬尾まいこの文章は優しい。きっと人間に対して優しい。
――大人になって意思を持ち始めると、手は引かれるものじゃなくてつなぐものになっていた。
このフレーズは、手を引かれることが少なくて、しかもしまいには自分が手を引く側になった七生の、急いで成長しなきゃいけなかった状況を説明してしまってる気がする。
残響 (中公文庫)

残響 (中公文庫)

こちらも◎。でも『プレーンソング』、『草の上の朝食』のような「この作家やばい」っていうかんじにはならなかったかなあ。期待しすぎたかな。

本多孝好『真夜中の5分前』(side-A,side-B)

真夜中の五分前five minutes to tomorrow side-A

真夜中の五分前five minutes to tomorrow side-A

真夜中の五分前five minutes to tomorrow side-B

真夜中の五分前five minutes to tomorrow side-B

side-Aの続編がside-B。2冊同時にやっと文庫化された。
アイデンティティーと「愛してる」って何っていうことがテーマなのかな。なんか書いてみるとすごく恥ずかしいな…。読んでると混乱してくるし、恋愛に関して結構冷めた目で見てしまいそうでこわい。本多は基本的につめたい。あと、たとえ方とか会話が、やっぱり春樹そっくりで、途中でそれが結構くどくなる。side-Bの始まりは、最初はびっくりしたけど、春樹だとすれば…っていう想像で読み進んだら、最後は、ああやっぱりって思ってしまった。まあまあよかったけどね。
猛スピードで母は (文春文庫)

猛スピードで母は (文春文庫)

サイドカーに犬』の原作。立ち読みした。映画化しておもしろいのか微妙。でも視点はおもしろかった。文章はきれい。

伊坂幸太郎『チルドレン』

チルドレン (講談社文庫)

チルドレン (講談社文庫)

陣内みたいな勝手きままだけど、さっぱりしてる性格の登場人物が好き。伊坂らしい、爽快なトリックがしかけてあった。5つの話でそれぞれ完結してるけど、全部つながってて、それがまたおもしろい。伊坂って銀行強盗好きなのかな?

保坂和志『草の上の朝食』

草の上の朝食 (中公文庫)

草の上の朝食 (中公文庫)

『プレーンソング』続編。
不思議だけど、プレーンソングのときもそうだったけど、読むと家の周りにいる猫たちに愛着が深まる。物語の山場とかがあるわけじゃなくて、日常の会話とか感じることがそのままきれいに文章になったかんじ。ソファでミルクティーと一緒に読みたい本だな。
――好きは全部おんなじだ。人間には近づきたい気持ちと遠ざかりたい気持ちの二つしかないんだよ。
このフレーズいいな。

佐藤多佳子『しゃべれどもしゃべれども』

しゃべれどもしゃべれども (新潮文庫)

しゃべれどもしゃべれども (新潮文庫)

映画も観た。
落語家の三つ葉のもとに集まった自信のない人たちが、ちょっとずつ元気になっていく話。うまくいかないことがあるのは三つ葉も一緒で、お互いに教えあっていく。自信のない人に「自信をもって」っていうのはすごく無責任で意味のないことで、何かのきっかけで誰かに評価されるためでなくて好きなようにやればいいんだってことがわかるときが本当に自信をもてるときなんじゃないかな。
文章が落語を意識してるのか、テンポがよくて気持ちよかった。
映画は、ちょっと登場人物のバックグラウンドが足りないし、何より良がいないのが残念。小説と比べちゃだめだけど、良は重要な登場人物だと思うんだけどな…。だいたい、私が泣きそうになった場面が良がいないことで削られてるじゃないか。でも全体的にいい映画だった。